例えばこんなラブソング






例えば、今ここでこの手を振り払うとどうなるんだろうか。
オスカーは自分を抱き寄せるルヴァの後頭部を見つめた。
口へのキスはしない。特に約束したわけではないが最初にオスカーが拒否して以来、唇同士が触れ合ったことはない。最初はそれでよかったはずなのに最近はなぜか物足りない。
自分の胸元に唇を這わせていくルヴァの髪に触れる。ふと気がつけばルヴァと共に過ごす夜、ルヴァの頭にその白いトレードマークはなかった。始めの頃は肌に当たるターバンの衣摺れをくすぐられたものだが、最近はルヴァのサラサラとした髪が当たるのを心地よく感じるのはなぜか。オスカーには思い当たる点があったがそれを認めたくはなかった。

子どもの頃は家族と聖地へきてからの誕生日は聖地にいる女神たちと過ごした。今回もオスカーはジュリアスに昼食を誘われた以外はそのつもりでいた。明日はオスカーの生まれた日で、それは聖地に召されて以降、意味をなさないものであったが、親しくなった者たちが気を利かせた誘いは寂寥感を埋めるにはちょうどよかった。
なんの約束もしていなかったというのに今夜ルヴァを訪ねて、腰に回った手をそのままにルヴァの首へとオスカーは腕を回す。
反発ばかりしてた始めの頃を思い出してオスカーは唇を歪めた。

「今日は静かですねー?」

ルヴァが喋ったことによりオスカーの皮膚にルヴァの吐息が当たる。オスカーは息を詰めながらルヴァの言葉に返す。

「なにがだ?」
「ふふふっ、いつもの軽口はどこにいったのかと思いまして……」

オスカーは男に抱かれたのはルヴァが初めてで、今でもなぜそうなったのか理解っていない。
オスカーはそれまで異性愛主義者で自分と同じものを抱いて何が楽しいのか、ましてや抱かれるなど死んでもごめんだと思っていた。
万一、男色を嗜むことになったとしても、それは女性に見える嫋やかな男を抱くのだろうとしか薄く考えてしかおらず。
それなのに地の守護聖ルヴァという男、自分より弱くて自分と気が合わず自分と水の守護聖とは別の意味で対極にある男――そんな男に抱かれるとは。
二人の間に恋だの愛だのという想いが通じてではなく、流されてから始まった逢瀬は今でも続いている。
全くもって理解不能だったのはそれを悪くないと思う自身の心情だったのだけども。

ひたすら胸への愛撫を受け入れて。舌と指による刺激を受けて、充血した乳首はかたく尖り、その刺激を甘受している。
唾液塗れて先がテラテラと光っている。膨らみもないのに性感だけはあるそこに浅ましく感じるが、ルヴァを払い、それを拭いたいような気は起きなかった。
払う気は起きなかったが、このまま本棚をバックに抱かれるつもりはなかった。
ルヴァの腕を取り上げて掴む。

「全くあんたは……ベッドまで待てないのか?」

オスカーの言葉にルヴァはきょとんとした表情をうかべたものの、すぐに柔和な笑みを浮かべる。少しだけその頬を染めて。

「私にはあなたを抱き上げることはできないので……あー、自分で歩いてもらえますか?」

申し訳なさそうに上目遣いでの依頼に、オスカーは乱暴にルヴァの腰を抱くとベッドへと引っ張っていく。

「あ、あ、あのー! 私は自分でいけますから! ちょっと! オスカー!!」

オスカーはルヴァをベッドへ放り投げると、その上に乗る。ベッドの端にあった本が崩れる。
オスカーはそれを気にせず、ルヴァが少し剥いていた自身のシャツを脱いで投げた。

少し前まではただの飾りだったオスカーの乳首は既に開発されていてルヴァの爪や歯が当たるたび、下半身は未だ触れられてないというのに血の気が集まっていく。胸と脚の付け根は離れた器官だというのに繋がってるようだ。

窮屈そうに押し上げ始めたパンツの上からルヴァの手が這う。平均よりも大分立派なその大きさや形を楽しむように布の上から動かされてオスカーは焦った声を出す。

「おい、パンツが汚れるだろ!」

ここはルヴァの部屋でオスカーはここに着替えなど自分の痕跡が残るものを持ち込んでいない。
オスカーの言葉を都合よく解釈したルヴァがにこやかに笑って返す。

「ふふふ、あなたは直接の方がお好きでしたよねぇ」

スラックスも下着も全て取り払われて、オスカーの逸物は既に血管が浮きだっている。ルヴァはオスカーを下に敷く。オスカーもわかっていたから素直に体勢を変えた。ルヴァは少し笑うとそれを口に含んだ。

「ンッ……」

ルヴァの手はオスカーの腰や腹を摩り肉と骨の形を楽しんでいる。口の中に溜めた唾液にしっかりオスカーの性器を浸し、慣らしたかと思うと吸い上げていく。よくもまぁこんな雄臭いものを咥えられるものだとオスカーはルヴァをみていた。そういえば、ルヴァも男色のケはなかったはずだ。それがこんな風にこれまでの彼女たちのような顔でオスカーのそれをしゃぶるようになったのは最近ではないか? 思い出そうとしたがルヴァに与えられる快感に溺れ、思い出すことができない。ルヴァは利き手でオスカーの亀頭を掴むと手と口の両方を遣い、オスカーを追い上げた。
じゅぼじゅぼというエロティクな音や揺れる揺れるルヴァの蒼い頭がオスカーの思考を奪う。上がる、上がる、一気に覚醒する。

「くッ!」

絞り取られたそれを布で拭くとルヴァは寝台の側にある引き出しから小瓶を取り出した。手慣れた様子で片手でそれを開けると掌に中の液体を垂らす。
粘度のあるそれの温度を確かめると、少々冷たかったようでルヴァは手の温度でそれを温めながら、オスカーの臀部へと伸ばした。
温められたオイルはオスカーの肌に馴染み、閉じられた窄まりへの侵入を許す。
自分よりも大分細いルヴァの指が自分の中へとぬるっと吸い込まるのをみたオスカーは胸に浮かぶ不思議な感情を飲み込めず、薄く息を吸った。
その瞬間を逃さないと言うようにルヴァの指が浅いところで折り曲げられて。

「アッ」

こりっとした部分を刺激されたかと思うともう一本、指が増えていた。
指の腹で交互に撫でるように叩くように触れられて、オスカーは快感を拾ってしまった。

「ふッ…あっ、んん…」

ただ手や口や膣で射精するときとは違う、身体の中芯が震えるようなその快感に身を任せてただ喘ぐ。
指が三本に増えてもまだ襞をなぞられ、時折、前立腺を弄ばれている。
勃起した雄は余ったオイルで磨かれ、筋張った血管が至る所にみられた。
オスカーに疑問が浮かんだ。
今日はまだ一度も挿入されていない。見たところ緩やかな装束のルヴァの下衣にはそれなりの男の兆しが見受けられる。

「ウッ、あ? 今日はまだ入れないのか? 珍しいじゃないか?」

いつもはさっさと済ませて本でも読みたいのか、適当な愛撫の後に突っ込んでくるというのに今日はかなり丁寧な前戯だとオスカーは揶揄ったつもりだった。しっかり咥え込んでは離さないオスカーが強請らないと二度目はないくらいで。

「あー、そのー、えっと……今日は朝まで付き合ってもらおうかと思ってましてね」
「ハァ!?」

寝てしまったとき以外は朝まで過ごしたこともなかった。オスカーが足りずルヴァの興が乗らなければ、そのまま下界のそういう界隈に向かったこともあるくらいだった。
どういうことだとオスカーは快楽に揺らいでいた目を白黒させた。
ルヴァは動かしていた手を止めると上背のあるオスカーを見上げながら続けて告げる。
オスカーと視線が絡む。オスカーの目にはルヴァの目にいつもの警戒した色でも怯えた色でもなく欲情の色の奥に別の色が見えた。

「……だき潰そうかと思いまして。明日はもう何処へもいけないように」

オスカーはそれを聞き、言葉がでなかった。
ルヴァもそこで黙ってしまう。
なぜ今更こんなことを言うのか――ふと、それに思い当たる。

「ルヴァ!」

口を噤んでしまったルヴァにオスカーは促す。続きが、続きがルヴァの言葉で聞きたい。
続きを聞けばこの関係は変わる。オスカーはあんなに忌避していたものを今は望んでいた。

「言えよ」
「あなたから言ってはどうですかー?」

オスカーは頭を掻く。なんだこの茶番は。
オスカーの態度にルヴァはなぜか少し自信を持っているようでいつもより強気だった。

「言わんと始まらんぞ」

オスカーがルヴァに見せるには珍しい困ったような顔でなおも強請ると、ルヴァは悪戯っぽく笑う。

「私たちはもう始まってるではありませんかー? ねぇオスカー……あなたは違いました? 私は男を抱いたの、あなたが初めてだったんですよー」

ウインクをしようと思い失敗したのか両目を瞬きさせたルヴァにオスカーは本当に不器用な男だと唇と歪めるとルヴァを抱き寄せた。
時計の鐘が0時を告げる。

「ふふふ、あなたが生まれた良き日に祝福を。おめでとうございます。オスカー」

ルヴァが顔を上げてオスカーの唇に口付ける。
軽く触れるだけの拙いキスに。
オスカーは嫌悪感も湧かず、もっと深いキスをしたいと思ってしまう。
続く言葉は結局なかったが二人の関係は変わってしまった。

ルヴァの宣言通り、朝が来てもルヴァの部屋からオスカーが出ていくことはなかった。










 お誕生日、おめでとうございます!

ふわこ